● 翻訳も通訳も現場で覚えました。フリーランス医薬翻訳者にインタビュー!
こんにちは。田村恵理子です。
フリーランスの翻訳のお仕事は、子育てしながらでも、家で翻訳できる点が、魅力です。
ただし、フリーランスとなると、時間の融通がきく一方で、自分でスケジュールを管理する必要があります。忙しいときは、休みなしの期間が続いたり、徹夜になったりするという話も、聞きます。
実際のところは、どうなのでしょうか?
そもそも、フリーランス医薬翻訳者になるためには、何をすれば良いのでしょうか?
子育て中のフリーランス医薬翻訳者の方に、インタビューさせて頂きました。
フリーランスの医薬翻訳者 リスノさん、こと、笠川梢さんです。
こちらのインタビューは2017年に実施しました。2022年にいただいた追加のメッセージを記事の最後に掲載しています。
英語が好きだった学生時代は、翻訳者は想定外
笠川さんが、英語の勉強を始めたのは、中学校に入ってからです。
外国に対する憧れがありました。
たまに、英語の授業に、外国人の先生が来ることも、ありました。そのような時には、あまり積極的では、ありませんでした。
それでも、英語は大好きで、得意な科目でした。
中学校入学と同時に聞き始めた、ラジオ基礎英語の影響もありました。
高校に入っても、英語は、ずっと好きで、得意でした。
大学は文系で、英語専攻ではありませんでしたが、将来は、英語を使う仕事がしたいと思っていました。
ただし、当時は、翻訳を仕事にしようとは、思いませんでした。
翻訳よりも、実際に英語を道具として使うお仕事に、興味がありました。
たとえば、企業で英語を使って営業したり、国連などの国際的なお仕事をしてみたいと思いました。
就職活動の際には、国連は、最低でも大学院の学歴が必要で、受けることはできませんでしたが、国際協力や途上国開発、国際交流関係の団体などの試験にもチャレンジしてみました。
そのような団体の試験は、英語以外の科目も多く、公務員試験よりもさらに難しい試験で、残念ながら、ご縁がありませんでした。
貿易事務として入った会社で、翻訳や通訳の現場に
結局、建材関連の商社に就職し、貿易事務などのお仕事をすることになりました。
小さな会社でしたから、英語ができる人は多くはありませんでした。
新人の笠川さんも、いきなり、英語を使う仕事を頼まれることが、多々ありました。
はじめから、英文レターなどのコレポンや、英語のカタログの翻訳などを依頼されました。カタログの訳と言っても、まずは、商品のことが分かりません。塗料や断熱材などの建材を扱う会社でしたから、まずは、そこから勉強しました。
仕事で出会う生の英語は、難しくて、大変でした。
上の人も忙しく、いつも、見てもらえる訳でもありませんでしたから、自分でも勉強しました。
何度もダメだしを受けて、落ち込んで帰ることも、ありました。残業も、よくしました。
とつぜん、商談に付き合ってと言われて、通訳をすることも、ありました。
いきなり現場に出された感じでした。
仕事のかたわら、英語の学校にも通いましたが、翻訳や通訳などを学ぶ上のクラスまでは行きませんでした。
翻訳も、通訳も、仕事を通して、現場で鍛えられました。
英語が好きでしたから、ありがたいと思う一方、失敗して凹むことも、よくありました。
world と water を聞き間違えてしまったことも、あります。そんな基本的なこともできないのか、と後で落ち込みました。
オーストラリアへの語学留学、そして製薬会社に
3、4年、貿易事務の仕事を続けた後、オーストラリアに半年ほど語学留学しました。
帰国後は、もっと英語を使って仕事をしたいと思い、英語を使う仕事を探しました。
製薬会社に派遣社員として入り、英文事務をすることになりました。ある新薬開発チームの、英語担当者です。
その製薬会社で、初めて、医薬の英語に出会いました。
医療、薬学の英語は、難しいけれど、身近な体のことですから馴染みがあり、興味が持てると思いました。
新しい薬を世の中に出すためには、動物試験、治験、新薬申請など、様々なプロセスがあります。派遣社員ではありましたが、チームの一員として、その流れを経験しました。
英語についても、上の人がチェックしてくれました。仕事を通じて、医薬翻訳を学んでいきました。外注の翻訳をチェックする仕事もしました。
このような経験が、のちに大いに役立つことになります。
その製薬会社で2年間、派遣で働いている間に、結婚が決まり、引っ越すことになりました。通勤圏外でした。
フリーランスの医薬翻訳者としてスタート
引っ越しを機に、フリーランス翻訳者として、お仕事することになりました。
ダメ元で、その製薬会社に、在宅で働けませんか?と、お願いしてみたのです。
結局、承諾してもらえて、2、3年の間は、半ば専属のような形で、その製薬会社からの翻訳のお仕事を、コンスタントに受けていました。
やがて、製薬会社からのお仕事が終了することになり、翻訳会社のトライアルを受けることにしました。
翻訳会社に登録するときは、経験3年以上が求められることが、多いです。笠川さんは、お勤めしながら翻訳を経験していましたので、経験3年は、軽くクリアできました。製薬会社にいた時に、発注側として取引のあった翻訳会社のトライアルも、受けました。
はじめは、5社のトライアルに応募して、3社に合格しました。翻訳分野は、医薬にしました。
そこから、本格的にフリーランスの医薬翻訳者として、スタートしました。
当初は、収入が安定しませんでした。忙しい時は、すごく忙しいのに、1ヶ月くらい、何も依頼がない期間が続くことも、ありました。
新人の頃は、夕方に依頼が来て、翌朝9時に納品というケースも、ありました。最初は、えり好みできませんから、徹夜で翻訳して、次の日の昼間に仮眠をとることも、ありました。
様子を見ながら、少しずつ、別の翻訳会社にも登録しました。
数年すると、仕事の波も落ち着いて、継続して、翻訳依頼をもらえるようになりました。
フリーランス医薬翻訳をしながらの、出産と子育て
出産の時は、半年と少し休みました。切迫早産でした。産前を長めに3ヶ月、産後に4ヶ月休み、復帰しました。ほぼ、計画通りです。
子供が生まれてみると、夜泣きもありますし、体調も崩しますし、やはり大変でした。仕事をセーブした分、収入は減りました。
それでも、家で子育てしながら、収入が得られるのは、ありがたいと思いました。
0歳、1歳の時は、基本的には、家で子供を見ていました。忙しい時だけ、自治体のファミリーサポートを利用しました。個人宅に、一時間単位で預かってもらえるサービスです。
2歳からは、昼間は子供を保育園に入れて、仕事量も若干増やしました。
現在は、お子さんも小学生になり、放課後は学童保育に通っています。
笠川さんがフリーランスの翻訳者として働き始めて、もう10年ほどになります。
フリーランスという働き方は、合っていると思われるそうです。
子供が、病気になっても、職場の誰かに気を使うわけでもなく、仕事を減らせばいいわけです。もちろん、収入も減りますが、首になることを心配する必要は、ありません。
フリーランス翻訳者という働き方と、その魅力
現在、登録している翻訳会社は5、6社で、実際には2、3社から、お仕事を受けています。和英と英和は、半々くらいです。
経験を積むごとに、やはり慣れて、翻訳スピードも多少は上がりました。
辞書や参考資料も、少しずつ買い足して、揃ってきました。調べ物などの時、参考になるサイトの利用の仕方も、経験値が上がると共に分かってきて、調べるスピードも速くなりました。
翻訳支援ツールは、普段は使っていません。指定された場合のみ、使います。短い文書が多いため、支援ツールを使う方が手間がかかることも多いのです。
大きい仕事は、なるべく入れないようにしています。もちろん、効率で考えると大きい案件の方が良いのですが、一旦お仕事を受けると、子供が病気になった時などに、休みを取ることが難しくなります。
当日納品や、翌日納品のお仕事も、できる時は受けます。納期が短い仕事は、しんどいですが、仕事量を調整しやすいのです。子供が元気で、たくさん仕事ができる日に仕事を入れることができます。
笠川さんの今年の目標の1つは、「後悔しないように子育てをやりきる。」です。
お仕事は、責任を持って取り組みつつ、細く、長く続ける方針です。
今は、できるだけ、昼間に翻訳をして、夜は仕事をしないというスケジュールにしています。
それでも、月に1度程度は、うまく管理できず、ほぼ徹夜になることもあるそうです。
笠川さんにとって、医薬翻訳の魅力は、ご自分でも内容に興味が持てる所です。体に関わることですから身近なテーマですし、出産、子育ても経験しましたから、医療やお薬には、関心があります。
その他にも、患者さんが良くなったという文書を訳すときは、単純に良かったと思えますし、医学の進歩を感じられるところも、面白いそうです。
医療や薬学については、専門家ではありませんので、翻訳の際は、その都度、必要なことを調べます。
ふだんから、新聞やテレビの医療番組や医療ニュースは、チェックしています。
英語についても、ストリーミングでラジオの実践ビジネス英語を聞いています。
フリーランスの医薬翻訳者を目指す人へのアドバイス
これから、フリーランス医薬翻訳者を目指す人にアドバイスするとしたら、まずは会社に入ることをお勧めするそうです。
医療機器会社、製薬会社、翻訳会社など、派遣でも良いから入って、実際に仕事で覚えていくのが、近道ではないかと、考えています。
それが無理な場合は、通信講座などのスクールもあります。笠川さんご自身も、翻訳全般や、医薬翻訳に特化した通信講座を受けたり、翻訳スクールの単発のセミナーに参加して、知識を身につけてこられました。
そして、実際に、医薬翻訳をやってみることも、お勧めだそうです。
新聞でも、ネットでも、色々な医療やお薬の記事がありますから、それを訳してみても良いのです。
何故かというと、医薬は、文書が堅苦しく、専門用語も多いため、人によっては合わない場合もあるからです。
訳してみて、毎日、翻訳できるかな?興味を持って続けられるのかな?と考えてみると、良いのですね。
笠川さんご自身は、ずっと一生、医薬翻訳の仕事でもいいと思われているそうですよ。
笠川さんから英語を勉強している皆さんへのメッセージ
2022年、笠川さんから新たに頂いたメッセージです。
インタビューを受けた2017年から5年近くたち、その頃の仕事の中心はメディカル翻訳でしたが、今ではご縁をいただき出版翻訳の仕事もするようになりました。5年前には夢にも思わなかったことです。
英語ができますと、仕事の幅がグンと広がります。TOEICを勉強中の皆さんの中には、やる気に満ちている方もいれば、思うように点数が上がらなくてもどかしい気持ちになっている方もいるかもしれません。
翻訳の場合、特に資格は不要で、TOEICのスコアも必要というわけではありませんが、一定レベルの英語ができることをわかりやすく周りの人に伝える道具にはなります。
勉強に疲れてしまうときがあるかもしれませんが、ぜひがんばってご自分の目標を達成してください。
私が翻訳の仕事を始める前のスコアは950点ほどでしたが、翻訳の仕事には一生勉強が必要ですので、今も日々英語を勉強し続けています。一緒にがんばりましょう!
フリーランスの医薬翻訳者 笠川さんのツイッターは、こちらです。
笠川さん、お忙しいところインタビュー、そしてメッセージもどうもありがとうございました!
この記事の他にも、翻訳、通訳をお仕事とされている方に英語の勉強法についてインタビュー記事を掲載しています。
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